2019年 8月号
一、台風の被害はなかったでしょうか
いつもお世話になりありがとうございます。
暦では立秋も過ぎ、そろそろ朝夕の風に秋の気配が感じられ、長かった猛暑と連休の疲れを癒したいのですが、思い通りにはならないようです。暦は、私たちが十分に働き暮らすなかで自然と体のリズムを調和させるためにあったはずなのです。しかし、いまではなかなか暦どおりにはいきませんね。
お盆には台風十号が広島県に上陸しました。二十九年ぶりだそうです。各地でJRの計画運休や交通規制もしかれ、休暇中の予定を変更せざるを得ない方もたくさん出ました。見えない被害もあることでしょう。皆さまのところに被害はございませんでしたか。
二、二年ぶり福州工場出張記
さて、今月は上旬に中国福州工場に出張しました。その後は長期連休で、この通信に「国内ネタ」がほとんどありません。そこで中国福州紀行を少し詳しくお伝えしたいと思います。
㈠ 二年ぶりの福州、発展に驚愕
この度の訪中は、二年ぶりのことでした。同行者は、リミット工場長、縫製ライン長、そして昨年より国内二工場をご指導いただいているコンサルタントの先生と私の四名でした。出発は、六日、関西国際空港からでした。出発前日まで台風八号で気をもみ、九日の帰国時には台風九号の進路予測が福州方面だったので、連休に入ってからの帰国も覚悟しておりました。しかし、それは杞憂でした。目的地福州に二十時四十分(ほぼ定刻)に到着しました。またトラブルなく、帰路を楽しみました。
福州空港は、二年前とはまったく様子が違っていました。ターミナルが増設され、到着ゲートから入国審査の場所まで長距離を延々と歩かなければなりません。入国審査時も指紋登録になっておりました。わずか二年で遂げたあまりにも大きい変貌には本当に驚かされました。空港には総経理が車で迎えに来てくれており、ホテルまで約一時間は快適でした。
㈡ 日中間の信頼と「良い工場」
翌日、朝から工場に行きました。例年ですとこの時期気温は四十度近くあり湿度も高く、四階建ての最上階にある工場は、屋上の日照が直接影響して、すぐにぐったりするのですが、今年は少し気温が低いのと、屋上に一メートル強の空間を設けた屋根を増設したおかげで、職場環境は改善されていました。それでも冷房のない送風機だけの工場内は、温度計を見ると三十度です。慣れない私たちには茹だる暑さで、汗が吹き出るなかでの指導でした。縫製ラインには十種類の品番が絶え間なく流れ、ミシンの轟音と送風機の風の音が朦朧とする頭の中で交錯します。
この度の訪問は、新たに難易度の高いブラウスとベストの生産を指導することでした。福州に工場登記して十三年。ユニウェア作業服を縫製し始めて十年間。約六百品番近い品番のほとんどを縫製してきた工場ですので、言葉が通じなくてもリミットと福州工場のライン長同士の技術的な面の会話は手つきでほぼ伝わります。工場長も裁断士さんとCAD・CAMのメンテナンスについて身振り手振りで意思疎通を図っています。何度も繰り返し訪中してくれた二人と福州スタッフとの間にはすでに深い信頼関係が構築されていますので、問題なくコミュニケーションがとれていて安心しました。それでも、どうしても伝わらない場合は、総経理に通訳してもらいます。
工場は、これまで青島から福州に変わり、福州内でも移転すること四回です。小さな工場ですが、国内外を問わず、何カ所もの工場生産を指導されているコンサルタントの先生からも「良い工場」だとお墨付きを頂きました。四回も移転をすると、さすがに設立当初から在籍している顔なじみの従業員はもはや数名のみです。春先にも縫製ラインの数名が急に退職し、減産もやむなし、と危惧しておりました。しかし、中国経済が減速し、労働市場は買い手有利となり、これによって運よく新たに数名が採用でき、現行を維持できそうです。
㈢ 困難を超えて、なお必要な「覚悟」
尖閣問題などで、政治的に日中関係が難しくなって以来数年。通関業務も手間がかかるようになっています。輸出原反一本一本にロット番号シールを貼るなど手間がかかる作業が続いてきました。しかし最近は、良好な関係に戻っており、このタイミングで、従来の簡便な輸出手続きに再挑戦してみようと思います。そうなれば、現在の労力が不要となり、生地を紡績会社より直接輸出港に着けることができるので効率もあがります。
それでも福州の総経理は言います。「現行の従業員たちも十年先はどうなっているかは分かりません。中国は定年年齢も日本より若年です。一人っ子政策時代に生まれた若者はキツイ製造業への就職を嫌います。仮に製造業を選んだとしても、就職して翌日から稼げる携帯電話などの組立工場などのライン工を選び、数か月間指導を受けないと儲からない縫製工は流行りません。社長は覚悟しておいてください」と。
現在、人口四千万の福建省は中国でも急速に拡大している主要地域です。福州は、その中でも更に成長発展が著しい人口一千万人の省都です。中国は日本がたどったような経済成長の道を猛進し、今まさに日本の背中をとらえようとしています。したがって、確かにこれからの中国での縫製業の従業員採用には更に厳しい道が待っています。しかし、携帯電話の組立ラインでは、数年後必ずロボットが代行し無人化されます。そして今、果実をも摘むことができる繊細なロボットや、故障や不都合が起きると自己修復できるロボットが生まれています。ミシン縫製も全自動化されるか、それともまだ人が介在するか。一体どちらになっていくのでしょうか?
製造業全体が正念場なのです。私は日本と中国双方の従業員の人生を左右する存在だということを忘れてはいけないのだ、ということを総経理の言葉から重く受け取りました。皆さまは、どのように感じられるでしょうか。
二〇一九年八月二十五日
笑顔着
リミット株式会社
代表取締役 有 木 宏 治
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