2017年 6月号



 一、ある経営者の偲ぶ会で


 いつもお世話になりありがとうございます。

 心なしか沈んで感じる空気にクチナシの香りが似合う季節になりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。今回は、今月経験した多くの交流の中から、三つの印象深い事柄について書いてみようと思います。

 まず一つ目は、人として、また経営者として、私が畏敬してやまなかった方についてです。その方が鬼籍に登られたことは、前々号でご紹介しました。今月中旬、その方を偲ぶ会がしめやかに執り行われました。各方面にご功績のあった方でしたので、会場にはたくさんの方々が業界の枠を越えて最後のお別れに参集されていました。

 企業経営を通じての交流でしたが、私にとっては、経営者の佇まいとはいかなるものかを教えてくださった偉大な方でした。私は、優しい表情のご遺影のもとに献花し、ご冥福をお祈りしました。そして、リミットにどんな危機が訪れようとも、あなたに習い真正面から受けて立ちますのでどうぞ見ていてください、と決意のほどをお伝えいたしました。


 二、病院へのお見舞いでのこと


 次の話題は、ある総合企画プロデューサーについてです。その方は、リミットのフォーマルブランド「リフィン」の立ち上げ以来、十四年間にわたってご指導してくださっています。先般、体調を崩され入院されたということで、お見舞いに行ってまいりました。いつも独創的で、パワフルで、高所に立って私たちの発想の殻を破るご指導を、毎月企画会議でご指導くださいました。

 点滴を受けながら、ベッドに横になったお姿。虚空をさまようかのうつろな目。病室に入って飛び込んできたのは、以前の先生からは想像できない様子でした。一瞬、来たことを後悔しました。

 それでも、来春カタログ作成の進行状況や新商品のご相談などを持ちかけますと、以前の鋭い眼光が戻ってきました。入院以来、ずっと毎日温めておられていた構想が止めどもなく口から溢れ出て、一時間くらい私たちは至福の時間を過ごすことができました。最後に先生は「こうして横になっていても、四六時中、やりたいアイデアが次から次に浮かんでくるんだ。それなのに、それなのに身体が・・・」と声を震わせ、悔し涙を浮かべておられました。鬼気迫る先生の相貌に、私は鳥肌が立ちました。

 先生、大丈夫です。ご安心ください。先生の哲学はこの十四年間でリミットの企画部門全員に染みついております。必ずやお客様に喜ばれる制服を世に出し続けますので、早く元気になって、戻ってきてください。こころよりお待ちしています。


 三、中根副社長と中根室長の退任のこと


 最後に、リミットの中根副社長と中根室長夫婦について述べておきます。ふたりは、先月末をもって長年務めておりましたリミットの取締役職を退任いたしました。これまでご支援、ご協力をくださった皆様、本当にありがとうございました。心からお礼申し上げます。二人とも、役員は一旦ここで退きますが、まだ身体も元気ですので、今まで通り新市工場で就業しております。何卒、今後ともよろしくお願いいたします。

 二人とも私が生まれたころから、創業苦難の時期を、先代を支えてここまでリミットを導いてくれた功労者です。リミットの四十七年間の歴史を実体験として語れる二人は、会社の重要文化財です。これからも体に気を付けて、リミットご意見番として、社員一同にリミット哲学を伝え続けていただけたらと切に願います。

 退任については、古希を前にした四月中旬、暇を頂き会長が長年巡礼した四国遍路を歩いてお参りしたい、と副社長より申し出があったことによります。突然のことで、私は、一瞬ためらったのですが、決意の固さが分かり、申し出を了として快く送り出しました。そして先月末、少し痩せましたが無事、満願成就して元気な姿を見せてくれました。歩き遍路は相当の脚力と精神力がなければ成就できません。

 巡礼道中の話をたくさん聴かせてくれました。八十八ケ寺を巡り、最後の高野山からの下山時には、これまでのリミットとともに歩んだ人生が走馬灯のように頭を駆け巡り、感無量になったと話をしてくれました。室長からは、毎年毎年、新商品を出すよう先代社長から言われ、そのプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、必死でリミットブランドを育て続けた話を聴きました。

 これらはつい最近、私が体験したエピソードです。若い時には感じませんでしたが、人はひとりで生きているのではなく、人との網の目のような交流によって生きていることがよく分かってきました。そこから人生になんらかの影響を与えられ、与えるのが人間です。おそらく、その交流をどう理解し実践するかによって、人生を変え、大きな成功が現れるものだと実感しています。



  二〇一七年六月二十五日

       笑顔着
       リミット株式会社
       代表取締役 有木宏治

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