2016年 10月号
一、あたりまえの大切さに気づくとき
いつもお世話になりありがとうございます。
近所の金木犀の甘い香りに誘われて、いつもの通勤が楽しく感じられます。朝のしじまが心地よい季節となりましたが、台風の爪痕は深く、野菜の値上がりは、どうも心地よくありません。暦の二十四節気の通りに季節が移ろうことがいかにありがたいか。あたりまえでない状況を経験したとき、私たちは、初めてそれに気づかされます。
二、変化する政治環境と福州工場移転計画
うららかな体育の日に、福州工場の総経理より青天の霹靂とも言うべき知らせがありました。メールによると、九月発表の中国商工部通達により、各工場は「消防設備証明書」なるものが必要になったということでした。我が中国福州工場は、三階建で建物の一階に間借りしています。一見して消火栓などの設備はありません。
それだけの通達でしたら何も大騒ぎする必要はありません。ところが、十月福州輸出分の通関手続きで、税関窓口の役人が「今月分の通関手続きから、工場建物の消防設備証明書を提示しなければ輸出はできない」と言ったのです。これには、弊社以外の他の委託加工業者からも大変な反発があり、税関は一時パニック状態になったそうです。
総経理は、何度か税関に通い、交渉を重ねて福州税関が管轄するすべての委託加工貿易業者は、一年に一度申請している生産能力証明書の期限を白紙にして、一律に今年の十二月末まで有効とし、それまでは今まで通りの契約を結んでも良い。ただし、来年一月以降の生産能力証明書を取得するためには、現在の工場での消防設備証明書を取得しなければならない、ということに決定したのです。
私はすぐに、現工場で消防設備を完備して消防設備証明を取得し、来年度の生産証明取得に進むよう総経理に伝えました。ところがその返事は、意外でした。現在の建物に消防設備を完備すれば莫大なコストがかかる。一番良い方法は、現在の工場近くで、消防設備証明をすでに取得している工場を探して移転する、ということでした。
私は、十二月末までの移転は時間的に不可能ではないかと申しました。すると、総経理がある計画を提案してきました。現在、あと二回残っている十二月末までの契約に、来年半年分の契約数をすべて網羅して契約しなおす。この二回分の契約がすべて履行される来年七月末までは今の場所で操業できるというのです。その間、コストも含めて移転先候補の議論をして、新工場をきめるのです。
私は、すぐに来年夏物までの生産計画を再集計し、各月に案分する指示を出しました。そうすれば今まで通り、生地輸出も製品輸入も月一の回転で変わりないということです。
リミットの年間生産計画は、毎年、その結果とほとんど誤差がありません。言い換えると、それだけ計画どおりに製造・販売されていることになります。毎日の販売データとにらめっこしながら生産計画を組み換えています。海外も含めた生産現場は、一枚単位まで生産計画のとおり忠実に製造しているからこそできる離れ業です。
今週、移転先候補を絞り、総経理と生産ライン長が来日します。私自身は正直なところ新しい工場での再出発に期待が膨らんでいます。しっかりコミュニケーションをとって、ベストの選択をします。次回のこの通信では事の成り行きをお話できると思います。
三、我が家のコミュニケーションスキル
この状況の中で、ふと我が家をみると心配になることがありました。
日々の暮らしの中で、何か普通でないことがあっても、いつも感謝の気持ちを忘れないように、と子どもたちには、ついつい説教じみてしまいます。というのも、あまり読書をしない彼らが、友達に直接会わず、電話の会話でもなく、ただSNSの世界の中で、文字キーをたたき続ける姿を見るにつけ、短文の返信文字に透ける相手の心の微かな揺れを、文字以上に敏感に感じとっているかが心配なのです。
このたびの福州工場に関する離れ業も、危機が迫るときに、本当の意味のコミュニケーションが、私たちを救うことを意味しています。子どもたちには是非理解して欲しいと思います。
四、商機の秋が到来
さて、気温が平年並みに下がってきたこともあって、秋冬物も本格的に動き出しました。中旬には、一時的に九月中旬の気温まで上がり心配をしました。しかし、下旬にはまた下がりましたので順調に受注が入るようになりました。先月分をカバーするところまでにはなっていませんが、昨年同月に肩を並べることができたのは久しぶりです。リミットの場合、実需のご注文が主です。よって今までの経験上、景気動向よりも先に需要が売上に如実に反映されます。できれば今後の商況が、来年に向かって持ち直してくれれば、と淡い期待をしております。
来季カタログ撮影も終わりましたし、今年ももう残すところ六十日余りです。すべての働く女性に喜ばれる製品作りに邁進してゆきます。
二〇一六年十月二十五日
笑顔着
リミット株式会社
代表取締役 有木宏治
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