2016年 3月号



 一、反省することしきり


 いつもお世話になりありがとうございます。

 三寒四温とはよく言ったものです。今年はこの通りを繰り返し、上着なしでの外出が快適な季節になりましたね。ただ厄介なのは花粉症。せっかくの散歩も、帰宅時には目も鼻も悲惨な状態です。快適になった陽気が体調不良の原因となる。このような矛盾は、ビジネスでも起きています。

 皆様は、ジェンガというゲームをご存知ですか?微妙に大きさが異なる木片を三本一組みで九十度ずらして模型のビルのように十八段積み上げます。参加者は、思ったところから木片を引き抜きます。崩した人が負けです。相手が不利になるように引き抜こうとして、それが自分の命取りになり、足元から瓦解して負けゲームになります。土台からてっぺんまでバランスを見誤ると、あっという間に崩壊です。企業経営のバランスは、このジェンガのようだと最近実感いたしました。

 どのようにバランスが保たれているか。自社の土台は、どのような状態かなどを見極め、周りに振り回されない揺るぎない信念を持つことがいかに大事か。仏壇に手を合わせながら、反省することしきりです。


 二、量から質の向上へ


 商戦は、春夏ものシーズンに入りました。リミットでは、三月初めから順調に売上を伸ばし、昨年同月対比二桁増の勢いです。今年は年間を通じて値上げをしませんので、お客様も安心して注文をくださるようです。

 リミットでは昨年、人と設備の双方への大幅投資によって、増産態勢を強化しました。その結果、備蓄製品が増え、昨年同時期にあれほどあった受注残は、指定納期で受注した商品を除けばほとんどありません。つまり受注即納率が大幅に向上したのです。海外・国内両工場の増産で、少しでも早くお客様に製品を届けるという目標はまた一歩前進いたしました。

 増産が量的目標なら、質的目標も必要です。それは、エンドユーザーに支持される新商品開発です。例えば、現場に常備しておくマタニティー作業服などです。これは、社会の変化がリミットに求めたものだと思っています。リミットには、変化に対応し、社会的に意味のある商品開発ヘの衝動が強く存在します。

 しかし、その開発衝動がいつもうまく実現するわけではありません。何をどう開発するかは、あくまで仮説に依っています。その時点ではエンドユーザーの支持が論証されたわけではありません。新商品として世には出たものの、結局廃番になるものも多々ありました。こうした無駄を防ぐには、市場に出る前に仮説の正しさをどこまで検証できるかにかかっています。これを実現する取り組みが、来年に向けての質的向上を目指す種まきです。

 来年度のユニウェア新商品では、エンドユーザーに支持していただける商品だけを皆様にご提案することを目標としています。その初の試みが、企画担当者とお客様サービスセンターのコラボレーションです。すでに順調に進行しています。ただしこれには、皆様のご協力が欠かせません。

 企画の仮説に基づいたファーストサンプルができた時点で、販売店の皆様にご協力していただき、商品を対象とする業界のユーザーにサンプルとして渡していただきます。後日、着用感をヒアリングしていただきます。この、いわばモニタリングデータを反映して、セカンドサンプルを開発します。こうして製品完成度を高め、最終的に新商品としてカタログに掲載いたします。

 販売店の皆様には、ご面倒なお願いをする場合もあるかと思います。その節にはご協力のほどよろしくお願いいたします。


 三、中国工場の好転と国家の不安要因


 今月中旬、中国福州工場を訪問しました。同行者は、生産部門からの二名とお客様サービスセンターから一名の社員でした。八カ月ぶりの工場は、昨年よりも明るく活気も感じられました。今年の春節明けは、全従業員が帰ってきてくれ、総経理も一安心ということでした。今回の目的は、新市工場の副ライン長の指導による、少し難易度の高い製品の縫製技術移転と、更なる多品種少量生産の実現です。最少輸出量を四十枚程度に下げる依頼に快諾をいただきました。福州の工場経費は毎年少しずつ上昇しておりますが、今期も工賃の現状維持を了解していただき、安心しました。総経理には本当に感謝しております。

 この度の訪中は、全国人民代表大会が閉幕したタイミングでした。中国政府は、二〇二〇年まで、年平均六・五%以上の成長率を目標と定めました。しかし総経理の実感としては、昨年比ゼロあるいはマイナス成長だと言うのです。株価低迷のため、投資は土地に移り、上海などは地価高騰だそうです。福建省では、地価は現状維持ですが、それは、すでに高騰していて下がらないためだそうです。

 最近起きている中国国内の大きな変化の一つは、農村戸籍から都市戸籍への変更をある程度認める方向に政策をシフトしたことです。人口の多い農村部から都市部に移動した人びとを定住させて不動産の購入などを促進し、それを内需拡大の切り札にすることで経済成長を促進しようというのです。

 供給過多の中国では、今後更に輸入は減るでしょう。そして、中国から輸出も減速し、なかなか回復への期待が持てません。新車販売も低迷しています。また、車を買いたくても車両登録が抽選になっており、購入できない人の不満は募るばかりです。
 どこの工場も景気は悪いのに慢性的な人手不足が深刻です。新入社員募集の立て看板は至るとこで見ることができます。九〇年代以降に生まれた若者の求職は、製造業を避けてサービス業に偏っています。どの工場も熟練工員ばかりで人件費高騰が深刻です。先端、伝統両方の技術の継承に苦慮し、外国の安価な労働力に頼ってしまった日本と同じ道を中国は歩んでいます。政府の思惑どおりにいけばよいのですが…。

 翻って、我が業界も素人でも縫える全自動ミシンを導入するか、縫製ロボット開発を待つしか道はないのでしょうか?



  二〇一六年三月二十五日

       笑顔着
       リミット株式会社
       代表取締役 有木宏治

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