2015年 3月号



 一、私事ながら、独り立ちの春


 いつもお世話になりありがとうございます。

 桜だよりがちらほら、鶯の初鳴きも聞こえたここ福山です。皆様のところへは、どのような春の便りがありましたでしょうか?冬物コートをワードローブへ、軽快な春の装いでの外出は、人を爽やかな気持ちにさせてくれます。

 春は、旅立ちの季節です。毎年この時期には、私も子供たちの卒業式や入学式などを繰り返してきましたが、この春は特別です。長女の大学が決まり、先般引っ越しを終えたばかりです。初めて親元を離れる我が子の一人暮らしには、一抹の不安はあります。私事ながら、今しかできない経験をたくさんしてもらいたいとの願いをこの通信に書かせていただきました。


 二、起こりつつある化学反応


 今月から値上げということもあり、前半の受注状況は低迷しておりました。後半になると、気温の上昇に連動するようにネット・FAX注文が徐々に増えてまいりました。もっとも前半の低迷をカバーするところまではいかず、三月売上は二桁減少になってしまいました。

 出雲工場に四名の新人が入社してはや一ヶ月。四月一日には新市工場にも新卒者が一名入社します。クイック生産は、国内生産の一番の強みです。少しでも早くユーザーへのお届けが可能になるクイック生産体制構築のために、現場は試行錯誤の連続です。繁忙期を前に、経験ゼロの新人に縫製を教えながら、納期管理を徹底してゆくことは、本当に多忙を極めます。「リミット哲学を継承してゆくんだ」という確固とした使命感がなければ、混乱を収拾できずにすべてが水泡に帰してしまいます。各人が自分の使命は何か、を明確に認識しながら、一つ一つ順序立てて行動しなければ、個人としても組織としても成長できません。もちろん時間はかかりますが、一人一人がモチベーションを高く維持して取り組んでゆくところに未来があるのです。

 繁忙期に突入した現場では、ミスがミスを誘わないよう、いろいろなことを予測しながら行動することが大事です。仮に予期せぬミスが起きても、しっかりバックアップ体制を取っていれば、失敗を最小限で食い止められます。昨年の失敗について、各部門で一年間話し合いながら迎えた春夏商戦。今年もお客様に喜んでいただけるよう、繁忙期を全力で乗り切りたいと考えております。

 今、リミット全体が激しく化学変化を起こしつつあり、私も非常に興味深く期待を込めて観察しております。


 三、リミット哲学、福州工場に浸透


 今月上旬、中国福州工場に行ってまいりました。今回、私に同行したのは、縫製ライン長とミシンメンテナンス技師の二人でした。

 沖縄より南にある福州市の気候は、この時期、日本の梅雨に似ています。気温は十五度前後ありますが、雨の日が多くて少し肌寒さを感じます。ホテルから工場に行く道中の街並みは、昨年八月の訪中時より更に建物が増え、道路も綺麗に舗装され、福州市の発展を実感できます。

 中国の生産状況は、総経理との日常的なメールを介して熟知しています。しかし、春節で帰省した全スタッフが、現場に帰って来てくれているかどうか、不安でいっぱいでした。

 工場入口を入るとけたたましいミシンの音が鳴り響いていました。工場内を見渡すと、見覚えのある顔が大勢目に入ってきて安堵しました。しかし、去年訪中した時、腕の良かった縫製スタッフの二名が見当たりません。総経理に尋ねると、賃金が良い別の工場に引き抜かれたということでした。総経理は「多分、帰ってきますよ」と言っておりました。そのうちの一名の顔が見えました。確認すると、やはりこの度戻ってきたということでした。リミットの福州工場は、多品種少量生産で鍛えられ、腕も良いスタッフが多く、よく引き抜きにあうそうです。それでも、復帰する人が多いのです。それは、行った先では残業がきついためです。小さな子供のいる三十歳代から四十歳代のスタッフからは残業のないリミットが喜ばれているそうです。

 工場内には見慣れない大きなホワイトボードが置いてあり、よく見てみると、毎日の各部署の生産成績が日付ごとに記入されていました。隣の黒板には、一日の平均縫製基準枚数が書かれており、これを超えた人の名前が上位者順に書かれてありました。誰でも一目でわかるよう「見える化」してありました。こうして個々人のモチベーションを高めているのだなと推測しました。福州工場の縫製スタッフは、昨年より三十%も増え、「見える化」がますます重要になるでしょう。 やはり中国の生産現場でも、総経理はリミット生産哲学をバックボーンにして、リミット独自のマネジメント・メソッドで個性を出してくれていることを感じ、大変ありがたく感じました。

 ところで、総経理が言うには、日本でもニュースになった汚職摘発はまだまだ進むだろうということでした。公務員給与は一律に引き下げられ、地方への投資は止まっています。過剰在庫が溢れ、まるで毛沢東時代に戻ったようだとも話していました。私たちがいつも宿泊している五つ星ホテルも、通常より宿泊客が少なく感じました。総経理によると、上位階級以上の役人しか、五つ星ホテルも宿泊できなくなっており、多数の五つ星ホテルや高級飲食店が潰れているということでした。中国のあまりにも過ぎた急成長が生みだした矛盾の後始末は、まだまだ尾を引きそうです。



  二〇一五年三月二十五日
       笑顔着
       リミット株式会社
       代表取締役 有木宏治

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