2014年 4月号



 一、移ろう季節、重ねる齢


 いつもお世話になりありがとうございます。

 桜が散り、帰宅途中に眺める新緑とツツジとの鮮やかなコントラスト。深い春霞に沈む夕陽。甘美な時期は短く、すぐに梅雨が訪れます。猛暑が過ぎて実りの秋の訪れ。やがて縮かむ手でストーブに火を入れる。変わらぬ自然の摂理に、心から感心させられます。

 私も、この短い気候のよい時期に、散歩を楽しむ年齢になりました。人生八十年とすれば、私の人生も、もう折り返し地点を回ったことになります。ペース配分を考えながら一歩一歩、意味のある歩みを刻んでゆかなければならない年齢です。あたりまえのことですが、自分の家族や社員も、皆一緒に年を重ねています。私が入社した二十年前のリミットは、社員の平均年齢は、三十代前半でした。現在の平均年齢は四十代後半です。特に本社の管理部門のスタッフは、働き盛りの四十前半が中心です。皆、社会的責任が増すとともに円熟味が出てきました。彼らこそ、今まで経験してきた営業マンがいない経営のノウハウを、ネット時代の新しい営業に生かして前進させてくれる人材です。一歩進んだ対応力を見せ始めたリミットに、ぜひご期待ください。


 二、駆け込み需要後も好調を維持


 先月は、前年対比三割増の駆け込み需要があり、消費税増税後の四月の業績がどのように推移するのか、不安がありました。上旬こそ三割近く売上を落としましたが、中旬から受注ペースが一気に上がり、最終的に四月は微増になります。結局、消費税率八%の影響は、杞憂だったようです。今月の好調は、従来の価格を据え置いたことに要因があるように感じます。リミットお客様サービスセンターの報告でも、三月以降の値上げの有無についての問い合わせが多かったようでした。

 別注案件の問い合わせに関しては、取引条件を緩和したことをご理解いただいているように感じます。「安い、最近リミットさんは値ごろ感が出てきたと思っていたところ!」と思わぬ反応を頂き、私どもがびっくりしています。聞くところによりますと、全般的にレディスウェア・メーカーは、今春に値上げを行ったところが多かったようです。リミットは、ユニウェアの値上げをしませんでした。それが、昨秋以降続く好調さの原因の一つと考えられます。先月の売上増の内容を分析してみますと、販売軒数と客単価どちらも増加しております。

 ご注文内容は、消費税増税を見越した春夏物の注文増との予想とは異なりました。秋冬物が大幅に伸びました。四月中旬からの本格的な夏商戦まで春夏在庫が十分だったので、受注当日即出荷のよい流れで進めることができました。また、ここ数年取引が途絶えていた販売店や新規販売店からもご注文をいただくことができました。これには長年のDMや、次々更新するホームページのサービス情報による訴求活動が認められたのではないかと喜んでおります。

 三、四月と国内工場では、残業しながら多品種少ロットをよく生産してくれました。まだ今現在も受注残は昨年に比べ多く抱えておりますが、早く追いつくよう現場も試行錯誤しています。これ以上の受注には、海外工場から製品を空輸するなど、更なる工夫が必要になると思います。それでも、リミットの納期は絶対です。ご安心ください。


 三、好調時こそ検証を優先


 よいことばかりではありません。売れ筋商品の生地不良により、多くのお客様にご迷惑をおかけしている実情もあります。生地メーカーとともに、不良部分発生の原因分析と改良版の試作・検証を経て、もうすぐ代わりの生地ができ上がってまいります。申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。
 繁忙期には、目先の「事件」に即対応することが優先され、問題発生の根本要因の分析が遅れがちになります。好調な場合こそ検証が重要です。好調さに浮かれてしまい、自分を見失う恐れもあります。四月以降の市況は、先月までの駆け込み需要の反動で低迷していると聞きます。よってより一層、この二か月間の営業内容を、もう少し掘り下げて分析する必要があります。
 リミット好調の要因の一つに、先ほどからのご説明に加え、リミットの「商品力」があると考えます。それは、販売実績に現れています。ここ数年動かなかった、どちらかと言えばリミットらしく他所にはない独特のデザインのポロシャツやスモック、ズボンといった商品が動いています。この現象は、消費税や商品価格が上がったので、どうせ購入するなら他所にない、価値あるものを求めてのことではないでしょうか?事実、売上増の高級品に対して、低価格品は低迷しているといった記事が新聞に載っていました。この状況は、生産計画担当者泣かせです。予期せぬ需要が発生し、それへの対応のために、受注後の後追い生産に追われることになるのです。


 四、品質価格のジレンマとブランド


 アベノミクスによるインフレへの道は、確かに消費物価の上昇を生み出しました。しかしこれまでの常識「価格は高くなれば、品質も良くなる」が通らなくなってきたように最近感じます。「製造コストが安いから価格は安い」という途上国では、一転してインフレによる人件費の高騰、為替の影響で輸入価格の上昇によって、どんどん価格が高くなります。単品大量生産なら数量による単価の下落で上昇した工賃をカバーもできるでしょう。しかし、日本国内の市場では、多品種・少量化へ消費傾向がシフトしています。その上、先端技術の移転で、途上国で画期的な新製品ができるようになり、安くて高品質の商品が生まれているのです。

 目を作業服業界に転じると、例えば、身近な備後作業服メーカーの国内工場は、現在フル生産だそうです。なぜなら消費税増税、価格値上げ後の動向の不透明さに加えて、先に述べたように高級品が売れ低価格帯商品が低迷するという複雑な状況で、先が読めないためにおきる在庫残を恐れて、海外で大量に作ることができなかったからです。

 石油などのエネルギーや原材料が高騰すれば、当然生地も高くなります。しかしコスト削減により、国内工場の検査人員を減らしてしまえば、品質管理が甘くなり、従来よりも品質の悪いものが世の中に出てしまう可能性も高まってしまいます。

 こうしたジレンマを背景に「商品力・在庫・価格」のバランスがそれぞれ保たれています。そして、ブランド価値も、このジレンマを抜け出たところに確立されるのです。


  二〇一四年四月二十四日
       笑顔着
       リミット株式会社
       代表取締役 有木宏治

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