2011年 10月号



 一、明るい兆しの見えた秋冬物商戦



いつもお世話になりありがとうございます。

南紀に大水害を引き起こした台風が去った後、朝晩が急に寒くなり、十月冒頭、北海道では初冠雪の便りも早々に届きました。秋冬商戦のピークは、早くも終わろうとしております。昨年は新工場立ち上げにより十月頃まで大量の受注残を抱えたまま、とにかく生産に追われっぱなしの一年でした。今年は新工場も順調に増産体制を整え、春夏・秋冬共に受注残が昨年の三分の一にまで減り、インターネット注文の入り具合がいつも気になってしようがない一年でした。ありがたいことに毎日の注文は順調に入り、今月も昨年同月比で微増することができました。生地調達に通常より時間が掛かりましたが、生産現場と生産計画が巧くかみ合いました。キャンセル率も昨年比三分の一まで減り、最適な製品在庫を背景に、当日注文当日出荷率も好結果を弾き出すことができました。

今年の売上分析をしてみると、取引販売店の軒数はさほど増加しておりませんが、一軒あたりの販売金額が全体的に増加しております。また商品分析でも定番商品だけでなく、リミットが分類しております未来商品、維持商品すべての品番で同率程度の伸びがみられ、全体的な底上げが感じられます。リーマンショックで一気に冷え込んだ市場に少しずつ明るい兆しがみられつつあることに喜びを感じます。次の成長に向け新たな経営方針を出し、各分野でステップアップを図ってゆきたいと考えております。



 二、中国生産のコスト高と販売価格について



一方、リミットの展望を考えたとき、最も気掛かりなのは、コストアップに原因がある粗利益率の低下です。売上は微増してきても、それとともに利益も増加し、それを次の投資に振り向けてゆかなければ、将来の成長は見込めません。コストアップの最大の原因は、生地・付属品などの原料高と中国における工賃の高騰です。この二つの要因は今後も防ぎようがありません。このコストアップの対応策として、今年は独資である福州新工場の急激な立ち上がりによる増産に着目し、一般的傾向とは真逆に、一枚あたりの工賃を下げてコスト削減を図りました。中国生産全体のコスト上昇傾向にもかかわらず工賃抑制ができたのは、独資工場だからです。中国サイドの協力に心から感謝しています。これに加えて、長期為替予約が昨年で終了したおかげで、支払工賃は、円高による相殺で何とか耐えることができました。

しかし来年は工場賃貸料も二年毎の更新の年です。総経理曰く、今までの一・五から二倍には確実に上がるそうです。食料品を中心にあらゆるコストが上がっております。デフレが長らく続く日本とは真反対で、開発途上国のインフレは凄まじい勢いで進んでおります。このため、リミットも来春の新カタログからは、値上げをお願いせざるを得ない状況となっています。バブル経済前から死守してきた価格だけに、価格決定は社長決断と腹を決めておりました。しかしながら、現在のところまだはっきりとした値上げ額は決めかねております。十一月のリミットネットワーク発行までには最終決定をし、皆様に具体的なお願いを申し上げなくてはなりません。今しばらく時間をいただけるようお願いいたします。



 三、危機から再構築へ、限界を超えて



今、世界は混迷の時代を迎えております。それは経済的な混迷のみを言うのではありません。十九世紀から二十世紀にかけて進歩した科学技術が、無条件に人を幸せにするという幻想を背景にし、原発、ダム、港湾などに代表される開発を善だとする強引なまでの社会資本増強による結果だと私は考えています。もう行き着くところまで科学が発展し、今まさにその限界がきたのではないかと絶望感すら感じていました。

ところが、この状況から新たな可能性を見いだすことができることに気がつきました。今年のノーベル物理学賞では、人間の「知」が極限まで行き着いてしまったと思っていたことが誤りでることを知らされました。我々の宇宙は、全く未知で計測すらできない宇宙全体の七割以上を占める「暗黒エネルギー」と、二割以上を占める「暗黒物質」が存在するという理論的仮説を抜きには説明できないというのです。その中で現在、私達が観測している物質は、全宇宙のたった四%にしか過ぎないのだそうです。別のニュースでは、光速より高速に移動するというニュートリノが発見されています。この実験結果が正しいとすると、アインシュタインの相対性理論が根底から覆ります。タイムマシンが可能になるというおとぎ話ではなく、科学全体、とりわけ哲学の根本の再構築が求められるという意味で興味が尽きません。

このような情報に接すると、今、世界中が陥っている混迷は、二十世紀までの私達の常識の延長線上では解決できないのではないか、と考えてしまいます。これからは、全く未知の科学概念が、新しい世界での再構築に導いていってくれるような気がして、何だか楽しくなってきます。

これは何も高尚で遠大な話ではなく、身近な例で置き換えれば、例えば、リミットがリーマンショックによって体験した売上激減の中、唯一の主力海外工場を手放し、生産を全面的に中止したどん底から、昨年新海外工場を立ち上げたこと。また、長期為替予約で多額の為替差損を覚悟した時も、同じように全く違った方法で、ピンチをチャンスに変え逆転、為替差益を出したことも、きっとそうなのです。「もうだめだ」から「全く新たに生み出す」。私達の生活の身近なところでももう変化は始まっています。私たちが行なってきた努力は、宇宙と同様、可能性の四%でしかなかったのかもしれません。

コンピュータの世界でもデスクトップ、ノートから多機能携帯端末を誰もが持っている時代に代わってきました。もう数十社の重いアパレルカタログを持って出かけなくてもよい時代になりました。伸び代はまだ無尽蔵です。過去のことをいくら言っても元には戻りません。今までとは全く異なる新しいエネルギー開発や価値訴求の時代に、日本はいち早く挑戦し、世界に向かって発進できる国になろうではありませんか。



二〇一一年十月二十五日

笑顔着

リミット株式会社

代表取締役 有木宏治

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