2010年 3月号

 

 一、よい土地によい種をまく



 いつもお世話になりありがとうございます。

 三寒四温の言葉通りに気温が暖かくなって参りました。桜の開花が早い今年は、この『リミット通信』がお手元にとどく頃、皆様の地域では見頃を迎えているかも知れません。

 さて、販売の様子ですが、ピンク、白やイエローなど明るい色の商品がよく動いております。これは今年の特徴です。リミットもこれらの色のように、行く手にようやく薄日が微かに見え始めた感じがいたします。この予感を大切にし、お客様に更に喜んでいただくための方針をしっかりと出していかなければと思っております。確かに焦りもありますが、焦ってもしようがないのです。

よく大地を耕し、種をまかなければ稔りある来年、再来年はやってきません。よい土壌によい種を蒔けば、後はすべての取引先の皆様やすべてのお客様、そして会社の皆が一致協力して一生懸命育ててくれます。厳しい時だからこそ、素直にありがたいという感謝の気持ちが自然と湧いてきます。



 二、文化の相互理解から再スタート



 さて、先月日本から輸出した縫製設備一式の設置が終った福州新工場のその後についてお知らせいたします。春節明けの平成二十二年二月二十二日と二並びの縁起の良い日からスタートし始めました。といっても従来から働いている核となる人材以外の募集は、春節明けから始めましたので、まだまだ本格稼動まで道のりは険しいです。今月は初旬と下旬に二度に分け一週間くらいずつ、企画室長と日本工場の各責任者が訪中し縫製指導をしてくれました。現地総経理も資材輸入の引取手続きに四苦八苦しております。並行して行なわれている内装工事の確認をしながら、また、新人工員との通訳もしてくれています。本当に忙殺状態です。おかげで、先月初旬のガランとして何もなかった工場は、このひと月ですっかり様変わりしました。

 実は、人材の募集は容易ではありません。現在の中国景気を象徴するようにどの工場も大々的に人材募集をしています。争奪戦もあるようで、先週採用した五人が今週はもう来なくなるなど、採用した工員の人数がまだ安定しません。人員が安定するまでにはもう少し時間が掛かりそうです。そういう事情で、安定した製品を目標通りに量産できるようになるのは、もう少し先になるでしょう。しかし急ぐ必要はありません。一歩一歩確かな足跡を残していかなければなりません。性急になりすぎると後で大きなツケが回ってきます。

 日中間では文化や常識が異なるのです。互いにそれを理解しなければ目標は達成できません。日本の品質基準を満たす完品を生み出す基本はこの点です。これがいかに難しいかは、以前の青島工場で経験してきました。同じ中国でも所が変わると、その地域の文化もあり、改めて相互理解の困難性を実感させられます。

 この度の訪中で企画室長はリミットの製品作りにかける心を伝えたいと抱負を語っていました。その具体的指導は工場の机や床掃除という形で伝えられました。〇か×、あるいは数値で教えられる技術よりも、モノづくりの根底に必要な精神を教えることは、文化や言葉の壁があり一筋縄にはいきません。組織が大きくなればなるほど、この部分の周知徹底は難しく、習慣化されるまでには時間が掛かります。基幹産業を中心に大手製造業の海外移転が加速しておりますが、その大変さは推測するに余りあります。たとえ実行できていたとしても、人は忘れる動物ですから反復が必要です。これは、トヨタを襲った事件からも教えられます。床掃除と作業服縫製、この因果関係を理解してもらうためリミットからの訪中はまだまだ続きます。



 三、歴史は成るべくして成る



 先日、あるセミナーに参加いたしました。講師は著名な歴史研究家でした。その講師が「日本人の好きな歴史上の人物ベストテンには共通点があるのですが、さて何でしょう?」と質問されました。ちなみに日本人の好きな歴史上の人物ベストスリーは平成元年から二十二年間変わっていないそうで「織田信長、坂本龍馬、諸葛孔明」だそうです。あなたは何だと思われますか?その答えは、「一発逆転、変身の達人」だそうです。考えてみれば日本人が大好きな水戸黄門や遠山の金さんも印籠や桜吹雪で大変身します。先ほど例に挙げた人物達も私の中では幼少期と青年期ではかなり印象が違います。

 なるほどと納得していたところ、講師より意外な言葉がありました。「しかし、皆さんがおもちになっているそれらの人物像は、その歴史上の人物が亡くなった後、物語として伝えられた伝記が影響しております。脚色された部分も多いのです。歴史家は歴史小説家ではありません。現在現存する書簡を紐解き、事実だけを拾い集めて検証し、事実だけを伝えることが歴史家です。歴史家の目から見れば、先ほど上がった人物たちも私から見れば正に『成るべくして成った』という表現しかありません。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、大変身、ましてや一発逆転などは人生にないのであります。ふと立ち止まり、歴史を振り返ってみれば、これからの将来は必ず見えます。」とお話されました。

 私はこの講義で少し納得させられました。大成功を収めた人も、多少の運が作用したとしてもやはり一歩ずつの人生なのだな、と変に納得してしまいました。

 皆様はどう考えられますか?





  二〇一〇年三月二十五日

       笑顔着

       リミット株式会社

       代表取締役 有木宏治

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