2010年 2月号
一、新期へ回復の気配
いつもお世話になりありがとうございます。
リミットグループも二月から新しい営業年度がスタートしました。新期早々の十日には、新カタログ発送出陣式を執り行いました。例年同様、備後吉備津神社宮司をお迎えして、無事発送が完了しました。今年は特に専務が中心になって、最悪期からの再起の決意を込めた式典になりました。と言うのも、あいにく私は、中国福州出張で出陣式には参加できなかったのです。遠くはなれた中国から、私も全社員と心をひとつにして、出陣式の成功と商戦の成就を祈念いたしました。
ところで業績の方ですが、昨年末よりこの三ヶ月は、昨年対比で少しずつ上昇しております。今月も順調に回復に向かっております。売上分母の小さい閑散期ですが、三月以降の繁忙期に向かって期待ができる状況だということです。このまま順調に推移することができればと願っております。
昨年度は、売上が減少する中、中国青島工場を停止させ国内工場をフル稼働させました。これにより、半年で在庫を前期比三十%減少させ、中国での工賃補填も減少させたことが資金繰りを楽にしてくれました。今月に入り、大口の引き合いもちらほら出始めています。
制服は企業活動の必需品です。景気による一時的な落ち込みがあるにしても、今後その反動としての「突然の増産」も怖いところではあります。
二、福州新工場稼働へ奮闘
今回の訪中は、春節までの一週間でした。目的は、中国福州の新工場にて、一月上旬に日本から輸出いたしました縫製設備の引取り、設置、設定と縫製技術の確認まででした。一ヶ月ぶりの新工場は、内装も終わり、設備も搬入されておりました。なによりうれしかったのは「福州宏正服装有限公司」と金文字の社名が玄関門に掲げられていたことでした。いよいよスタートするぞと鳥肌が立ちました。
しかし新工場に入った直後から、先行きの大変さを思い知らされ、意気消沈しました。搬入した特殊ミシンは梱包のままでした。訪中までに中国ジューキに組立てをお願いしていたミシンも手がつけられていません。現地で購入したミシンは、電源プラグさえついていません。配線がむき出しの状態でした。
幸い日本から新市工場の若手責任者とミシン調整専門のベテラン社員、企画研究所室長の計四名が同行していました。すぐにそれぞれの持ち場に移動し、限られた時間と戦いながら、一つずつ問題をクリアしていきました。やっと問題がクリアできても、また新しい問題が次から次へと出てきます。トラブルの厄介さは、こうしたことを言うのでしょうか。予定通り日本に帰れるかとても不安でした。
私達一行よりさらに苦労していたのは新工場の鄭総経理でした。私よりも若く、また貿易通関や縫製工場の経験は皆無。昨年の工場設立場所選定の日から今日までたった四ヶ月という短期間を、中国と日本を互いに行き来しながら一気に計画を進めてまいりました。中国側でもいろいろな問題を山積みにしたまま走ってここまで来ました。日本から輸出した生地や附属品の引取通関にてんてこ舞いの状況で、話しかけるのも憚られる様子でした。
総経理を悩ませる最大の原因は、リミットの特徴であり強みでもある多品種小ロット生産です。一回の輸出が百品番近くになります。中国はまだまだ大量単品生産が主流ですから福州の税関も目を丸くして無理難題を言ってくるそうです。問題をクリアしながら、通関事務を一つ一つ総経理と相談しながら理解しています。こうしたことは、青島工場では経験できませんでした。
鄭総経理は私達の移動の運転から通訳・食事、銀行・税関・他業者との一切のやり取り、CAM、芯貼り機など新設備、玉切りなど特殊ミシンの操作方法まですべてを一人でこなしていました。頭がパンクしてもおかしくありません。業務を分担できる人の採用を進めても、これからのコストを気にしてすべて一人でしています。私も鄭総経理を見習い、ベテラン社員に叱られながらミシンの組み立てを手伝いました。実は、このたびが初めての経験で、特殊ミシンの構造や機能を初めて知りました。あらためて日本の技術レベルに舌を巻きました。訪中初日の夕食時、企画室長より「社長も総経理も、縫製工場を一から作るということが、どういうことなのか何も知らないので良かったですね」と笑顔で声をかけられました。
どうにかこうにか新工場の稼動ができる状態まで漕ぎ着けました。これから人の募集や縫製指導、ライン組みを経て完成品の輸出まで、走りながらそれでも確実に一歩一歩いかなければなりません。先日のリコール報道で明らかになったトヨタのような失敗は許されません。そんなことを考えながら、総投資額四千万円の新工場を見上げ、身震いした貴重な一週間でした。
三、内需拡大の中国での人材不安
新工場のある工業区には沢山工場があります。その殆どで、今年は去年と様相が一変していました。春節前の大晦日直前までどの工場も沢山の工員さんたちが帰省もせず働いていました。この時期、例年は閑散とした工場街なのです。中国の内需拡大を目指した大型投資の話は日本でも知っていました。しかし、総経理の話を聞いて更にそれを実感しました。中国のそれぞれの省単位でもかなり公共投資を増やして内需拡大への後押しをしているそうです。特に福建省では浙江省と広東省、また関係良好な向かいにある台湾を含めた大型経済特区の開発が着々と進行しているそうです。なるほど、どの工場も人手不足で急募の張り紙があるくらい仕事があるのだと納得しました。同時に春節明けの人の募集が少し心配になってきました。
新工場も裏路地に一本入ればまだまだ開発が遅れています。このまま中国が内需で溢れれば、日本からの仕事をしてくれる工場があるでしょうか?新しい工場を立ち上げることは大変ですが、自社工場無しで委託していくことの恐ろしさも痛感しました。
我が業界は過去十年の間に価格をどんどん下げて市場を縮小させてしまいました。日本はこれから急激に人口が減ります。新しい市場を創造し、そこで働く人たちに満足していただける付加価値の高い新商品を開発し、高価格にて販売していく以外、日本では制服業界という市場は大きくならない気がしてなりません。
二〇一〇年二月二十五日
笑顔着
リミット株式会社
代表取締役 有木宏治
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