2007年 7月号

 

 一、危機を救う生産管理システム



 いつもお世話になりありがとうございます。

 リミットは、毎期決算書に今期営業報告書と来期営業方針を添えて、取引金融機関と仕入商社に郵送いたします。今回の平成十八年度の決算書は、平成四年度の決算との比較で説明しました。平成四年と言えば売り上げの減少が始まりその半減を予感した時期です。一般的に企業のユニフォームの備蓄も五年分ほどはあり、社員も制服支給よりリストラをしないことを要求すると予測した場合、売上がゼロになる可能性も考えられたのです。とは言え不況であっても資金が充分にある会社も少なくないのだから、売上が五十パーセント減で下げ止まるなら最高だと思いました。この条件の中で確実に生き残るには、会社の規模も在庫も二分の一にしなくては資金不足を起こします。そこで不測の事態に備え商社に融資の準備をお願いしていました。

 この時に威力を発揮したのがリミットの生産計画ソフトでした。平成四年当時、一般的には作業服の在庫点数はコンピュータ在庫と合わないのが常識と言われた中、リミットの在庫情報は即時更新で、現時点で一枚でも在庫が解る正確な在庫システムができていました。そして年間生産計画システムも稼働していました。一年で在庫半減に持ち込むシミュレーションができたのです。中国の工場も国内工場も休業で生産調整し、その補償を払うことにしました。工場休業補償を払い赤字になっても、資金不足で倒産することはありません。在庫過剰は、資金不足を引き起こし倒産に至ります。売上半減の金額と在庫半減の条件でシミュレーションをしました。生産計画書通りに休業し、一年半で在庫を半減させることができました。平成四年当時にリミットのコンピュータシステムはこれだけの威力を発揮していたのです。

 二十年前、パソコンは処理スピードも遅く、百万円もしていた端末に先行投資が結果を出したのです。売り上げが半減を予測できたとしても、リミットに年間生産計画システムが完成していなかったら倒産は免れなかったでしょう。人間の閃きとコンピュータの管理能力のバランスがとれていたのだと思います。そしてこの度問題になった大手の会社の管理面の脆弱性を見て、改めて情報システムの重要性を認識しました。



 二、後退する道を選択した意味



 平成四年から現在までの間に私は、非常事態宣言を三回も発動し、会社規模をコンパクトにしてリストラの強硬策をとりました。ある業界紙には「社長の給料をゼロにしてでも社員のリストラをすべきではない」と書かれ私も一時期、給料はゼロにしました。売上が落ち始めた平成四年にリミットが百パーセント生き残るには、最悪のことを考えて行動を起こさなくてはなりません。リミットは他社より三十年遅れているだけに、資金の余裕はなく、逆に借入金が多くありました。その条件の中で売上が半減しても百パーセント生き残るにはどのようにすればよいかと考えたのです。

 その時に二つの行動が考えられました。一つは進軍ラッパを吹き鳴らし、突撃して売上を落とすなと檄を飛ばし行動を起こすことです。この場合、売上が維持できなかった場合は大変なことになります。リミットは、もう一つの行動として前進ではなく、会社を半分の規模にするために猛烈な後退の道を選びました。コンピュータシステムのシミュレーション通りにすれば、一年で在庫は半減すると確信を持っていました。緊急に在庫を落とすには生産を止めればよいのです。しかし工場の生産停止は色々な問題を起こして大変なことです。これは突撃するより困難な道で、リミットも倒産の噂が広がりました。しかし確信を持って行動を起こしました。突撃の方針を出した会社は売上を維持するために価格競争に入りました。その結果をみると突撃した会社も、十四年間の歴史の中で売上は半減しています。リミットは後退しながら価格維持をしました。この価格維持は他社が価格競争をされているだけに売上が全くなくなるのではないかと恐怖心を持ちました。自分の恐怖の念と戦いながらの価格維持でした。

 このような悪条件の中で在庫を落として確保した資金で、支払手形を廃止して現金支払いにしました。このことはオイルショックの時の支払手形での生き地獄の経験を生かしました。極端な場合、手形支払いがなければ、金のある時払いができます。続いて取り組んだのが借入金の完済でした。流動負債と固定負債は平成四年比七十パーセントに減少しています。売上が半減する過程で、負債をへらすことは常識では考えられません。では何故実現できたか、それはコンピュータシステムに先行投資して会社の財務を完全掌握して即戦略を考えることができたからです。



 三、管理者としての企業トップの責務



 最近新聞紙上で、各業界の大手企業が管理面での問題を起こしています。各社の企業理念は「守りは負けの始まり」「積極果敢に攻めよ、守りは負けの始まりなり」「常にチャレンジせよ」。一社はこんな言葉を社是に掲げています。他の一社は社是の言葉も考えは酷似しています。「前進を忘れて現状維持の発想になったとき企業は終わる」「絶対ポジティブ(態度や考え方が積極的)」この積極的な考え方で急成長したのです。

 しかし大きな問題点は管理面を強化しなかったことです。保険業界でも社会保険庁でもトップが指図をしないで管理システムはできません。情報部に任せるなら情報の責任者は経営に精通した人材を置かなくては役立つシステムはできません。最近新聞紙上で問題を起こしている役所会社は全て情報システムをおろそかにしています。

 平成四年に一年間で在庫を半減させたことは、当初、閃きのお陰と思っていました。しかし最近閃きだけでは実現していないと感じるようになりました。当時のリミットの情報システムのレベルは他社でもできていると思っていました。私の交際嫌いの性分が逆に作用し、経営に役立つ情報システムが他社に負けてはいけないと一生懸命レベルの向上に努力していました。世間知らずがプラスになったのです。人間の運命は人間の知恵では説明できないことが多くあると思います。



  二〇〇七年七月二十五日

       笑顔着

       リミット株式会社

       代表取締役 有 木 伸 宏 

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