2007年 6月号

 

 一、2位以下では記憶に残らない



 いつも大変お世話になりありがとうございます。

 リミットは、個人企業時代の一九六五年、女性専用の作業服を日本で最初に縫製、販売した会社です。そしてその商品で、情報システムを使った通信販売を始めたのも、業界内ではリミットが最初だと思います。

 しかし最初に手がけた割には会社が大きくなりませんでした。私が体も弱い、資金もない、最悪のどん底から立ち上がってきただけに、多くの遠回りの道を歩み急激な前進はありませんでした。お得意先では「女子作業服のリミット」はよく知られています。しかしそれに「日本一」がつけば疑問に思われます。私は社内に対しては、「会社の規模ではなく商品企画力で誰からも認められる日本一になれ」といつも檄を飛ばしています。また、お得意先には「女子作業服のリミット」は、知られているのだから、私の時代の作業服を大きく変化させ、専務が引き継ぎ、新しい時代に対応した製品をつくり、女性の働き着では日本一と完全に認知されるようにして欲しいと言っています。

 なぜこのように日本一にこだわるのか?その理由は簡単です。日本で一番高い山は、富士山と誰でも解ります。日本で二番目に高い山は?日本で三番目に長い川は?日本で四番目に大きい湖は?「ナンバーワン」はすぐわかっても、二番目、三番目、四番目となるともうわからなくなります。企業も「ナンバーワン」しか覚えてもらえません。だからナンバーワンになることが何より重要なのです。

 小さな会社でも日本一になることができます。女性専用の作業服の縫製販売を始めて四十二年間の努力の結果、最近企業体質も強くなりました。情報システム、企画ノウハウも多く蓄積することができました。急激に成長した会社は基盤ができていないので、予想外の出来事に非常に弱いのです。この意味で基盤が固まったリミットグループの実力を発揮するときが来たと思っています。



 二、無借金経営と投資



 私から専務の時代に引き継ぐに当たり、財務強化するため、全支払いが現金支払いとなりました。無借金経営も見通しがたってきました。しかし無借金になると世間によくあるのが会社の雰囲気が安易になり、闘争心を失って進歩が止まるケースです。それを防ぐのは先行投資です。その返済の努力の繰り返しが、会社を進歩させるのです。リミットは規模の割には情報システムや生産関連機器に大きな投資をしてきました。CAMも二十年前に五千万円で第一号機を買いました。現在は高性能になり価格は格段に下がり一千二百万円です。パソコンも初歩的な性能で一台百万円もしていました。リースの支払いも相当の金額でした。今考えると大変危険な額の投資でした。投資過剰で倒産していれば、私は無計画な投資をした無能な経営者となります。投資の判断は経営者です。私は今投資しなくては時代遅れで倒産する。同じ倒産するなら投資をして会社の運命をかけるのも一つの方法と考えたのです。この投資の結果が二〇〇一年、NEC本社でインターネットビジネスソフトで最優秀賞を受賞したことにもかかわっています。

 四月のリミット通信で、保険業界の未払い金について書きましたが、社会保険庁の五千万人の名義不明金の問題が起こっています。これらは、すべて情報システムの充実に設備投資をしていないのが一因です。有名な会社でも歴史に安住して情報システムに投資せず、問題を起こす会社が多く出てくると思います。リミットは危険を冒しても将来を考え投資をしてきました。投資は経営者の哲学に基づいて行われます。長年銀行借入金が多かったので設備は金利が高くてもリースにしてきました。そして、高い金利にもかかわらず二十年間毎年大きな金額を払い続けました。その結果、ノウハウを蓄積することができました。今年度より減価償却制度が変わりましたので、銀行借入金で設備投資をすることに決めました。



 三、経営主体としての家系を維持する



 長寿企業を目指すには、会社の株式の分散は避けなければなりません。戦前は経営者の長男が全部相続していました。戦後、法律が変わり、兄弟全員が相続できるようになりました。

 そして敗戦後の米国流改革の負の面が、今になって企業の存続に重くのしかかっています。もたらされた核家族化が高齢社会問題も複雑にしています。長男相続なら家系を引き継ぎ、親の老後の面倒を見るのは当然のこととなります。婦人服量販チェーン店しまむらの会長は、全員相続の民法について次のように言われています。「戦前は長男相続でした。一家の重要な事柄を決めるのに、家族を集めた親族会議が開かれていました。決して相続した家長の独断に任せていたわけではありません。変化の激しい社会ほど、リーダーには高い能力が要求されます。家長が相続して家族関係を構築できる民法とは何かを考えるべき時期に来ていると思います。家族を重視して、家族の柱となる人間とその責任を明確にすること。そして家系を大事にし、将来への継続を強く意識すること。時代が変わってもこのことの価値は変わる事はありません。」と。

 現在の民法の兄弟全員相続のもとでは多くの企業が財産争いを起し、会社を崩壊させています。この争いを防ぐには、長年かけて贈与税を払いながらでも贈与するしか現在は方法がありません。贈与税は日本では最高税率になっています。有利な税率で相当の年月をかけて対策を考えなくてはなりません。この対策を先送りした経営者が相続問題を発生させていると思います。米国企業が重視する株主利益優先と社員の成果主義は企業の先行投資を弱めます。先行投資を継続し、会社の管理強化に努力し続けないと長寿企業にはなれません。

 長寿企業になるには家系を維持し、家訓と経営理念を継承し、経営者がその時代に対応しながら頑固に守り続けなくてはなりません。家系の継続と経営理念を忘れたとき、長寿企業から脱落してしまいます。私の兄は幼いときに旧民法の長男相続で全財産を相続しました。しかし、戦後兄は大阪へ、私は新市に残り戦後六十年間、兄の亡き後贈与税を払いながら兄の家族の協力で山林、田畑、家屋敷を私と専務へ名義変更しました。

 経営主体としての家系を守るには何が大切かを決め、実現に向かって粘り強く行動を起こすことが、結果的には長寿企業にもつながると思います。



  二〇〇七年六月二十五日

       笑顔着

       リミット株式会社

       代表取締役 有 木 伸 宏

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